IEA一部委員による2007年のドイツ批判に対するコメント 2008.10.9 産業技術総合研究所 太陽光発電研究センター 櫻井啓一郎 ---------------------------------- この文書について: ・2007年秋頃に起草し、個人的に公開しているものです。  幾度か改版していますが、要点は当初から変わっていません。 ・研究所やセンターの公式見解ではありません。  一研究者の立場で書いています。  学術的な議論やツッコミを歓迎します。 ・フィードインタリフ(固定価格買い取り)制度に関しては、  解説と個人的意見を下記にまとめてあります。  宜しければこちらもご参照下さい。 http://ksakurai.nwr.jp/R/slides/WhyFIT/ ご参考になれば幸いです。 ---------------------------------- 対象文書: IEA, Energy Policies of IEA Countries Germany 2007 Review, Jun 2007 http://www.iea.org/Textbase/press/pressdetail.asp?PRESS_REL_ID=229 ---------------------- Executive Summary: ・致命的欠陥:  ・コスト低減で最も重要なのは設備価格の市場であることは既知の事実である。   にもかかわらず、重要性の低い電力価格の市場を優先させようとしている。  ・普及初期における価格だけで価格性能比を論じている。  ・普及段階の異なる技術を同列に論じており、非合理的である。 ・主な疑問点:  ・FIT制の利点を認めているにも関わらず、それを否定している。  ・FIT制に劣ることが実績で明らかなquota制を勧めており、その論拠も曖昧である。   「高い」と繰り返すだけで、「高すぎる」論拠は示されていない。  ・quota制が実績で劣り、様々な欠点を有することが既知であるにもかかわらず、その点への言及が無い  ・表現上の言い換えや省略により、複数箇所を見比べないと   矛盾が顕在化しないようになっている部分がある。 ・結論:   調査もしくは検討が不足しており、論理にも破綻が見られる。   FITよりもquotaを勧める論拠としては不十分である。 ・留意点:   ・IEAは「国際的な電力取引の障害になる」ことを主な論拠の1つに用いているが、    これは日本に当てはまらない。   ・この報告書の後(2008年6月および9月)、当のIEAによって    「TGC(グリーン電力証書)に基づいた方法(=quota制全般)よりも、FITの方が優れている」    と表明されている(下記)ため、論拠そのものが既に否定されている。 ------------------------------------------------- ざっくりしたまとめ: ・主な主張:  ・FITの出費、とりわけ太陽光に対するものが「とても高い(very high)」  ・再生可能エネルギー市場はもうwell establishedである。政府の保証に頼るのはやめよ。  ・FITのせいで市場が「flexibilityを欠く」  ・FITのせいで他国の市場との親和性が悪く、(電力価格の)市場が閉鎖的になる だからquotaに変えるのを勧める。 ただしFIT継続の可能性も残しており、完全否定はしていない。 ・考えられる反論: 過去の実績と数々の文献から、  ・FIT制は最も顕著な実績を上げており、そのコストも効果に見合ったものと考えられる  ・FIT制は迅速かつフレキシブルな制度である  ・quotaの方が無駄が多く、FITより高くつく  ・quotaの方が市場の伸びる余地を制限し、flexibilityを欠く ということが言える。少なくともこれらを見る限りFITの方が優れているはずであるが、 このレポートの主張には、それらに対する反証が見あたらない。 また、  ・太陽光の長期的利益を考慮せず、普及の初期段階のみを対象として批判するのは非合理的である。  ・風力はともかく、バイオマスや太陽光のコストはまだ高くて普及も初期段階である。一緒くたに論じるのは非合理的である。  ・実績でも理論的にもコスト低減には設備価格の市場が最も重要であるのに、   less importantな電力価格の市場を優先せよと主張している。   (そして設備価格の市場は、域内関税の無いEUでは最初から開放されている。)  ・電力価格の市場に関しても、FITをEU全域に拡大するオプションを検討していない。   既にEU-25のうち19カ国が導入しているのに、非合理的である。  ・「高い」「高い」と繰り返しているが、上記の事項により「高すぎる」論拠としては不十分。なのにquota制に変えることを勧めている。 のように、非合理的な主張が複数箇所に見受けられる。 ・疑問点:  ・FIT制の利点を認めているにも関わらず、それを否定している。  ・FIT制に劣ることが実績で明らかなquota制を勧めており、その論拠も曖昧である。  ・(quota制などに比べた)FIT制の利点を認めているにも関わらず、quota制がそれに劣る事実に一切言及していない。  ・レポート中では、一般的な表現である"quota"をobligationと言い換え、   さらにそれを(電力価格の)"market-based"という曖昧な表現に置き換えている。   そしてobligationという表現が出現する箇所では、単に"market"という言葉だけを   用いることで、それが「電力価格の」市場であることを明示していない。 これにより、何も知らない読者がquota制が「設備価格の」market-basedな制度であると 誤解する危険性が存在している。 (実際は「電力価格の」market-basedであり、電力量当たりの価格が高いものは振り落とされる。) ・結論: 確固たる論証なしに、批判の文言を並べて既存制度の見直しを要求している。 これは詭弁である。 ・付記: ・当該レポートを作成したチームには、デンマーク人のチーム長を含め、  再生可能エネルギーの学者が見あたらない。対して、原子力や天然ガスの学者は入っている。 ・仮にこのレポートの内容を完全に認めると、多くの再生可能エネルギーそのものの存在意義が問われる。  価格低減の可能性を考慮せず、普及の初期段階における価格だけで批判しているからである。 ・類似した批判が過去に有る。2005年、VDEWによる攻撃をBMUが退けている。  レポート中にもVDEWの名前が出てくる。 ・IEAが理由に挙げている国際的な電力の取引は、日本の場合、全く当てはまらない。 ・2008年、当のIEA自身が下記の報告書において 「TGC(グリーン電力証書;日本も該当)に基づいた方法よりも、FITの方が優れている」 と述べた上で、明確にFITを肯定している(下記)。 IEA, Energy Technology Perspectives 2008, Jun 2008 IEA, Deploying Renewables : Principles for Effective Policies, Sep 2008 --------- (参考)IEAによる最新かつ包括的なFITの評価: ・IEA, Energy Technology Perspectives 2008, Jun 2008 http://www.iea.org/Textbase/press/pressdetail.asp?PRESS_REL_ID=263 「TGC(グリーン電力証書;日本も該当)に基づいた方法よりも、FITの方が優れている」 と認めている。  P.218(PDF: P.220)に、下記の記述がある。 "Policies are needed to remove non-economic barriers to the diffusion of renewable energy. Administrative complexities or hurdles, grid-access issues that (...) Removing these barriers remains a key area for future policy work and public involvement. Policy support mechanisms for RETs should be designed to be transitional, with decreasing support levels over time. Beyond the need to ensure the continuity of a renewable-energy policy, the support mechanisms have to be flexible enough to ensure that they keep up with technological improvements and do not exclude less competitive RET options that have a high potential for development in the longer term. In these respects, feed-in tariffs have generally been more effective than tradable green certificate-based (TGC) schemes in developing RETs, although at a relatively high price. Regular review of the mechanisms in place and of the progress achieved are crucial to ensure that renewable-energy penetration and deployment occurs smoothly and effectively." "再生可能エネルギーに対する非経済的障壁を取り除くため、政策的措置が必要である。 このような障壁としては、管理上の複雑さや障害、系統連系にまつわる障害などが挙げられる (...) こうした障壁を取り除くことは、今後の政策の役割と公衆の参加にとって未だ重要な案件として残っている。 再生可能エネルギー技術に対する政策的補助は暫定的なもので無ければならず、年月と共に減少すべきものである。 こうした政策は同時に連続的で無ければならない。そのためには技術革新についていけて、なおかつ 長期的に高い性能向上ポテンシャルを有しながら価格的競争力で劣る技術を排除しないだけの柔軟性が 求められる。こうした点において、やや高い価格付けをするものの、一般的にFITは 再生可能エネルギーの普及促進においてグリーン電力証書(TGC)ベースの仕組みよりも優れた 効果を発揮する。再生可能エネルギーのスムーズで効果的な実用化と普及のためには、促進のしくみと その成果の両方が定期的に評価されることが必要不可欠である。" ・IEA, Deploying Renewables : Principles for Effective Policies (Sep 2008) http://www.iea.org/w/bookshop/add.aspx?id=337 「助成水準は穏やかで、かつグリーン電力証書(TGCs)を用いるquota制を  用いる諸国の同様の制度よりも安い。」と評している。また、太陽光発電のように  まだコスト差が大きい技術の普及促進に適することも指摘している。 ・結論の章の P.174に、下記の既述がある: "In the case of on-shore wind, a combination of long term feed-in tariffs (FITs),guaranteeing high investment stability and an appropriate framework with low administrative and regulatory barriers as well as relatively favourable grid access conditions, has driven successful deployment in several European countries. The specific remuneration levels (in USD/kWh) are moderate and lower than the ones in countries applying quota obligation systems with tradable green certificates (TGCs)." 「フィードインタリフ制度は、陸上の風力において、高い投資安全性と、 低い制度・規制面での障壁、望ましい系統連系条件を整えた上で用いられた 場合、幾つもの欧州諸国において普及促進を成功させている。助成水準は 穏やかで、かつグリーン電力証書(TGCs)を用いるquota制(義務付け型)を 用いる諸国の同様の制度よりも安い。」 ・P.178〜P.179において、太陽光発電などのコスト差が  まだ大きい技術にFIT(FIP)が適する旨が記されている。 これらより、IEAは最新かつ包括的な評価において、FITを明確に肯定していると言える。 ----------------- その他参考資料: 一部の要約 http://renewjobs.blogspot.com/2007/10/iea-germany-energy-policy-review-2007.html WWEAによる反論 http://www.wwindea.org/home/index.php?option=com_content&task=view&id=176&Itemid=40 EPIAによる反論 An argument for Feed-in Tariffs http://www.epia.org/fileadmin/EPIA_docs/publications/epia/An_Argument_for_Feed-in_Tariffs.pdf 当該IEA文書の後で発行されたドイツのProgress Report http://www.bmu.de/files/pdfs/allgemein/application/pdf/erfahrungsbericht_eeg_2007_zf_en.pdf 類似のEEG批判@2005年: Miguel Mendonca, Feed-in Tariff (ISBN978-1-84407-466-2)のP.39〜42に反論と共に詳述されている。 http://www.erneuerbare-energien.de/inhalt/36040/4595/ がBMUの反論らしい(独語)。 ------------------------------------------------- 以下、個別に言及している所を片っ端からダメ出し。最後に結論、および執筆チームに関する調査結果。 レポート自身が同じ事を繰り返して言っているため、繰り返しが多いのはご勘弁。 P.12 The country’s feed-in tariff for renewables has resulted in rapid deployment of new electricity capacity, but has done so at a high cost. Estimates show that between 2000 and 2012, the feed-in tariff will cost EUR 68 billion in total. In particular, the subsidies provided to solar photovoltaics are very high in relation to output; they will eat up 20% of the budget but contribute less than 5% of the resulting generation. In comparison, many energy efficiency measures cost multiples less in terms of their reductions in carbon dioxide emissions.(…) → 2000-2012年という、FIT全体でみれば半分以下の期間しか評価していない。   普及初期の価格が高いのは当たり前であり、そこだけを見て評価するのは非合理的である。   普及初期におけるコストのみを理由に新しい手法を丸ごと否定していては、その長期的利益をも失う。   然るにこのレポートは、普及初期におけるコストしか比較していない。 P.12 As renewables are well established in the market(…) →風力と、太陽光やバイオマスを一緒くたに論じるのは無理がある。 FIT対象となっている再生可能エネルギーの中でも、現段階でwell establishedと言えるのは辛うじて風力ぐらいであろう。 少なくとも、cost competitiveでは無い。これは、IEAレポート後に出されたドイツのProgress Reportにも明記されている(P.9)。 http://www.bmu.de/files/pdfs/allgemein/application/pdf/erfahrungsbericht_eeg_2007_zf_en.pdf またP.16に、ドイツでの今後の普及量の予測もある。風力を除き、期待される量に比して、現状はまだとても少ない。 なにより、現在のような爆発的普及は2004年から始まったばかりである。高々3,4年でestablishedというのは無理がある。 P.12 the government should consider moving towards ・a more flexible policy that meshes renewable resources →実績から言って、  ・枠を越えると在庫を抱えるリスクがあるため、生産量が伸びる余地を制限し、計画値を下回るリスクを増大させる。  ・市場の発達が"stop-and-go"になりやすい。  ・即応性に欠け、微調整しにくい。 量にcapをかぶせてしまうquotaの方がflexibilityを欠く。 (Miguel Mendonca, Feed-in Tariff (ISBN978-1-84407-466-2)、P.14;「flexibilityを欠く」と明記されている) FIT制は下記にあるように様々なオプションの適用が容易かつ迅速にでき、こうした点でもquota制よりむしろflexibleである。 http://onlinepact.org/fileadmin/user_upload/PACT/Learn_more/Klein_et_al.__2006_.pdf これより、このIEAの主張は事実に反している。さらに、その理由の説明も無い。 P.12 ・ Not only would integrating Germany’s electricity market with the internal European market be easier if its renewables promotion scheme relied more on market forces and less on governmentprovided guarantees,but integration would also provide renewables suppliers with incentives to build and operate the right kind of facilities in the right locations, and bring greater competitive pressure to lower costs FITを捨ててまで、EUのマーケットとのintegrationを優先せよと主張している。 →EUのマーケットにintegrationするために、FITを捨てる必然性が説明されていない。  仮にFITを捨てたとしても、FITの利益より、EU市場へのintegrationの利益が勝る保証は無い。示唆に留まる。  EUのマーケット全体をFITで統一することも可能なはずだが、それに対する言及も無い。 →ここでいうマーケットとは、電力の小売市場である。  しかし少なくとも太陽光や風力に関しては、設備生産事業者同士の競争がコストの大部分を決め、  発電事業者間の競争の影響は少ない。電力小売市場のマーケットを拡げても、  もともと域内関税の無いEUでは設備生産事業者同士の競争を促進する効果は少ないと考えられる。  (下記文献に基づく私の考察)。 http://www.dspace.cam.ac.uk/handle/1810/131635  即ち、IEAはコスト低減や普及においてless importantな部分を優先させよと論じている。これは非合理的である。 →政策の変更自体がgovernment guranteeの効果を著しく減退させるリスクがある。  未成熟な段階でgovernment guarantee が無くなれば、市場規模の突然の停滞や縮小を招く恐れが高い。 http://ideas.repec.org/a/ids/ijgeni/v25y2006i3-4p204-218.html  このリスクに全く言及していない。 →locationや競争促進に関しても、FITはquotaよりflexibleである。タリフ設定の努力次第である。 http://onlinepact.org/fileadmin/user_upload/PACT/Learn_more/Klein_et_al.__2006_.pdf →さらに言えば、わざわざ遠方へ送電することは非効率的な側面も持つ。 (Miguel Mendonca, Feed-in Tariff (ISBN978-1-84407-466-2)、P.42) P.40 For example, Germany’s feed-in tariff subsidises solar PV at 40 eurocents per kWh above the average cost of electricity. The benefit of this policy in terms of avoided CO2 emissions corresponds to a carbon abatement cost of EUR 1 000 per tonne of CO2 abated (...) even relatively expensive efficiency retrofits of buildings have costs that are 30 to 50 times lower in terms of reduced CO2 emissions. →太陽光は、最も削減が難しいピーク時の排出量を集中的に削減するため、同じ削減量でも価値が高い。 →FIT制のコストが多すぎるかどうかは、長期的に平均した利益と比較せねばならない。  太陽光による排出削減量あたりのコストは今後減少し、その利用可能量は事実上無限である。  省エネルギーによる削減量あたりのコストは低難度の案件が片付くにつれて上昇し、そのうち限界を迎える。 よって、太陽光に対するFIT制を否定する論拠にならないばかりか、 他の削減手法にもっと金を割け、という論拠としても不十分である。 P.70 According to VDN, wind, which is forecast to provide the lion’s share of renewable electricity (over 58%), will also take up the largest share of the payments (46%). In contrast, solar, which will provide 4.5% of total renewable electricity, will take up nearly 20% of the total fees. →最も費用が高い期間だけを捉えて比較しても、長期的利益の差を論ずることはできない。  また、太陽光特有の利益、風力発電との違いなども考慮されていない。 P.73 The feed-in tariff’s guaranteed rates provide high investor security. In addition, renewables are guaranteed priority access to the electricity network. These factors have made the feed-in tariff successful, resulting in (...) Furthermore, many new actors have entered the market, helping drive a steeper learning curve and pushing down costs. →ここでこのようにFITの長所を認めながら、その全てで劣ると認定されているquota制を勧めるのは矛盾している。  その矛盾に対する説明も無い。 P.73 the government might consider future policies that rely less on guaranteed long-term subsidies for suppliers and more on market forces and incentives that put downward pressure on prices (...) → (ここではquota制と明示していないが)既述の通り、その全てでquota制は劣る。実績と矛盾する主張である。   ここでquota制と明示すればここだけで矛盾は明らかとなるが、   それを何故か一度別の表現に置き換えている。 P.73-74 Estimates by the association of network operators show that between 2000 and 2012, the feed-in tariff will lead to payments for grid operators of EUR 68 billion (...) nuclear, coal and gas costs about 4 to 5 eurocents per kWh. As a result, between 2000 and 2012, the excess cost of promoting renewable electricity in Germany will be EUR 30 to 36 billion in total, about EUR 2.5 to 3 billion per year. Considering the high costs of the feed-in tariff for solar photovoltaics, (...) → 既述の通り、初期段階の高コストだけを取り上げて評価するのは非合理的である。   また、原子力はともかく、ここで石炭やガスを持ち出すのは無意味。 →これだけで「高い」「凄く高い」などと論拠に用いること自体が妥当性に欠ける。  妥当性がある評価をするなら、長期的にみた太陽光の価格低下の可能性も含めて評価を下さねばならない。  (つまり、これは太陽光発電の存在意義に対する挑戦である。) P.75 the feed-in tariff limits market flexibility → 既述。quotaの方がflexibilityに欠ける。 P.75 and relies on the government to determine electricity payment rates, → 既述。コスト低減と普及の上で最も重要なのは設備価格の低減であり、電気料金では無い。 http://www.dspace.cam.ac.uk/handle/1810/131635 P.75 rather than letting market forces reflect costs dynamically. →FITは初期段階では競争よりも新規事業者の参入や新技術の投入を促すことに重点を置いているために  競争は弱まるとも言える。しかしその後のタリフの逓減段階では競争が任意に強められる。  またFITが直接決定するのは買い取り価格だけであり、その点でも最も重要な設備価格の競争を制限しにくい。  結果、quotaよりも競争は強い。 http://www.dspace.cam.ac.uk/handle/1810/131635    逆にquotaは量的上限をかぶせることによって最初から寡占化を促進し、市場の拡大も弱い。  これは実績から言って縮小再生産を招きやすく、market forceがあっても技術革新や 量産規模拡大が滞りやすいが、そのことに対する言及はない。 P.75 it creates a class of energy that requires fixed subsidies to survive; as seen in the coal sector →最終的にコスト競争力に欠けるエネルギー源はquota制においても発生するであろうし、  quota制の方がcost低減圧力も技術開発も少なく、助成プランが打ち切られたときに生き残る 設備量も限られると考えられる。実例でもイギリスの風力発電のように、quota制の方が 「いつまで経ってもコストの下がらないエネルギー源」状況を産み出す危険性が高いと考えられる。 (スライドP.24, http://www.dspace.cam.ac.uk/handle/1810/131635 ) しかし、これに対する反証は書かれていない。 また、まるでFITのみにsubsidiesが存在するかのような書き方であるが、quotaのみならず、 既存の枯渇性燃料に対するsubsidiesはどうなのか、という点にも言及は無い。 →quota制では、FITのstepped tariffのように設置条件によってタリフを変えて利回りを  案件ごとに適正な率に留めるのが難しく、むしろ払いすぎ(oversubsidizing)が出やすい (もしくは制度が複雑になり、管理コストがかさむ=どのみち無駄が増える)。 http://onlinepact.org/fileadmin/user_upload/PACT/Learn_more/Klein_et_al.__2006_.pdf  このquota制の欠点に対する言及が無く、その優位性は説明できていない。 P.75 rather than letting market forces reflect costs dynamically → 市場拡大に重きを置く初期段階はともかく、以降は逓減によって競争が強められるので、  むしろFITの方がcostを正確に反映すると考えられる(私の考察)。  またquotaでは、投機の対象になるなどして価格が不安定になる可能性があるが、  FITでは上限が決まっており、しかも強制的に下がる。 (Miguel Mendonca, Feed-in Tariff (ISBN978-1-84407-466-2)、P.14) →さらに言えば、ここでのmarketはやはり電力価格市場であり、FITが重要視する設備価格市場よりも  less importantである(既述)。 P.75 As renewable electricity is no longer inconsequential in the German market . it already makes up over 10%, and this amount is set to grow to at least 20% by 2020 . renewables supply should be integrated with the wider market (...) As Germany’s renewables supply is now well established, (...) →既述。FIT終末段階の風力と初期段階の太陽光を一緒くたに論じるのは非合理的。 P.75 As Germany’s renewables supply is now well established, we encourage the government to consider more market-based renewables promotion policies, such as a renewables obligation scheme (...)This system forces private renewables producers to compete against each other on price ここで初めて、今まで"market-based"と曖昧に表現されていたFIT以外の候補が obligation (quota)であることが示される。 →しかしここで彼らが言うmarketとは、電力価格市場のことである。 再生可能エネルギーのコストで最も重要なファクターである、設備価格のmarketのことでは無い。 また各国での実績から、quotaの不利は明らかである。 しかしここまでのIEAの主張は全体に「FITやめた方がいいかも」という示唆に留まり、 IEA自身が成功を認める制度をわざわざ捨ててまで、不利がわかっている制度に乗り換えるほどの 明確な論拠を示せていない。少なくとも、報告されている不利を覆すには不十分である。 にもかかわらず、わざわざrecommend している。ここには論理の飛躍がある。 P.75 Market-based renewables promotion schemes in Sweden, Australia and the United States (including in Texas and California) have produced promising results. → 多くは初期普及段階にある市場である。今後イギリスや日本のように  崩れない論拠は示されていない。また、FITより優秀であるという論拠にもならない。 P.75-76 It is also more compatible with a liberalised electricity market, (...) → 既述。重要なのは電力価格市場ではない。 P.76 Should the feed-in tariff continue, efforts should be made to continue to improve it so that it incorporates as many market-based elements as possible. → IEAは必ずしも完全にFITを否定しているわけではない。ここまでの内容からして、この判断は合理的である。 (全体) IEAは太陽光へのFITの出費に対して very high という表現を複数箇所で用いているが、 too high であるとは言っていない。  →この点は妥当な判断である。   なぜなら、「高すぎる」かどうかを評価するには、下記のような項目の評価が必要だからである。 ・FIT全期間のみならず、FIT終了後に普及が完了するまでの間のコスト低減効果 ・他の技術で太陽光発電の分まで無理にカバーしようとした場合に増加するコストやリスク  (即ち、太陽光発電の存在意義)   またquota制への移行を主張するには、FIT制がquota制に対し、   上記2点に関してコスト高になり、普及が遅くなることを示さなければいけない。   しかし現実は真逆であり、IEAの主張はその矛盾も説明できていない。 http://www.dspace.cam.ac.uk/handle/1810/131635 →また仮に「高すぎる」としても、タリフの額を減らせば良いだけの話であり、そのような調整をしやすいのもFITの特長である。  FITを維持する理由にはなっても、quotaに変える論拠にはならない。 →予算を省エネルギーなど他の手法にもっと割け、という主張は合理的である可能性が残っている。  しかし2012年までというごく短期間でしか太陽光への出費を評価せず、  FIT終了後まで含めた長期的視野でみた利益を考慮していない以上、  ここでのIEAの主張の論拠には十分な合理性が無い。  また上記同様、quota制に変えろと言う論拠にはならない。 結論: ・FIT の RPS/TGC(quota)に対する優位性は、下記に代表される学術論文によって調査・分析されている。 http://www.dspace.cam.ac.uk/handle/1810/131635 http://onlinepact.org/fileadmin/user_upload/PACT/Learn_more/Klein_et_al.__2006_.pdf 突き詰めるとFITの優位性(普及促進およびコスト低減)は、生産企業の投資リスクの低減、およびそのflexibilityによってもたらされている。 IEAの主張は、これらに対する反証にならない。 各国での実績に反して、初期段階を過ぎた後でもquota制の方が投資リスクが低くなる理由、flexibleになる理由を示せていないからである。 ・のみならずこのレポートの内容は、突き詰めていくと再生可能エネルギーそのものの存在意義を否定する論拠になりうる。 このIEAの主張を完全に認めるならば、普及の初期段階で高価なものは、将来のコストダウンの余地にかかわらず、全て現時点でより廉価なもので置き換えねばならなくなるからである。 ・環境保護の効果(外部コストの低減効果)についても、ドイツはFIT制全体の効果が  その費用を上回る成果を挙げていると推算している(下記)。  IEAのこのレポートの論理では、ドイツの主張に対する反証にはならない。 http://www.bmu.de/files/english/renewable_energy/downloads/application/pdf/ee_kosten_stromerzeugung_en.pdf ・省エネルギーなど他の手法に予算をもっと回すべきだという主張が適切である可能性はある。  しかしこのIEAのレポートはFITの長期的視野でみた利益を一切考慮しておらず、この主張の論拠としても合理性に欠ける。  仮に助成水準が"高すぎた"としても、このレポートはquotaに変えよと言う論拠にはならない。 まとめると、このIEAのレポートは、ドイツのFIT制のタリフを減らしたり、quota制に変えさせるだけの論拠に欠ける。 ------------------------------------------------- 付記: IEAの当該レポートの執筆チームには、原子力や天然ガスの専門家は居られるが、再生可能エネルギーの専門家は見あたらない。 チームリーダーはデンマーク出身で再生可能エネルギーを推進する立場にはあるものの、 法学部出身の官僚であり、情報を集めた限りでは再生可能エネルギーコストダウンの可能性などについて 深く知っておられる証拠が見つからない。 また、デンマークにおける太陽光発電は皆無に等しい。 ・評価チームリーダーの Hans Jorgen Koch (Denmark)氏の履歴は下記が詳しい。 ftp://ftp.cordis.europa.eu/pub/eesd/docs/ev260901_session_2_session_abstracts_cvs.pdf ・デンマークに於ける太陽光発電の利用は皆無である(下記の氏のプレゼンを参照した)。 http://www.ambwarszawa.um.dk/NR/rdonlyres/12DD8B54-0ADC-4A8A-9FAF-9EC14BDFB168/0/HJKpresentationEEpoliciesinDK.ppt -------------------------------------------------